車両・航空
部門
SENOO
2015年入社
商学部 卒
一からプロジェクトに携わるチャンスが到来。
2019年8月、羽田空港の国際線増便に向け、東京上空を小型ジェット機が飛行した。航空機が空港から空港まで安全に運航できるよう、「空の道」を実際に飛行して検査する「飛行検査機」、通称ドクターホワイトだ。兼松がこの飛行検査機を国土交通省航空局(以下JCAB)へ納入したのは2015年のこと。同年、兼松に入社した妹尾はその引き渡し直前の国内諸調整を担当し、その後も、飛行検査機更新プロジェクトに携わってきた。「金額規模も社会的影響力も大きい仕事がしたい」という想いを持って、航空宇宙部を希望した妹尾にとって飛行検査機ビジネスはまさに自分が打ち込むに値する仕事といえた。
2018年春。入社4年目の妹尾は大きな転機を迎えていた。JCABが導入する「新たな飛行検査機」の入札案件を任されることになったのだ。妹尾は期待に胸を高鳴らせていた。「それまでのプロジェクトではまだ上司の後ろについて学びながら取り組んでいる感覚だったので、ようやく一人立ちし、本当の意味で自分の力を試せる時が来たのだと思いました」
妹尾は意気揚々と、入札に先立ってJCABが飛行検査機関連各社を集めて行う説明会に赴いた。そこに顔を揃えたのは競合4社。この人たちに勝たなければいけない。妹尾は身の引き締まる思いがした。そんな中、JCABの担当者が今回の導入コンセプトや導入したい機能を説明し始めると、妹尾はその内容に「今までとはだいぶ違う。大胆に変えてくるな」と驚きを隠せなかった。航空機の運用に係る技術が進化すれば、それに伴い飛行検査機の検査能力もアップグレードしていく必要があるのは当然だが・・・。グローバリゼーションが高まり、ますます日本の航空需要が旺盛になる中、日本の空の安全を守るために、検査能力の最新化や航空機運用のさらなる効率化を、これまでよりもはるかに高いレベルで実現したい。妹尾はそんなJCABの覚悟を感じていた。その一方で腕も鳴る。兼松は国内では先駆けて1990年代より飛行検査機のビジネスに携わってきた実績を持ち、お客様のニーズを熟知するとともに、世界有数の飛行検査メーカーと連携してきた中で世界的な技術動向にも精通している。ニーズに合った技術提案においては兼松に勝機あり。妹尾はそう考えていた。
圧倒的に時間が足りない。
その中でのタフな日々。
説明会に参加した兼松をはじめ各社から提供された情報の元、新たな飛行検査機に求めるスペックや構築すべき機体納入後の運用サポート体制を記した仕様書をJCABが公示し、各社に技術提案書として提出することを要請したのは、2018年10月。この技術提案書の内容がJCABの求める仕様を満たしていると認められた会社のみが、入札のステージへ進むことができる。「JCABの要求事項は多岐にわたり、その一つひとつを細かく検討して回答を作成。さらに回答内容を裏付けるメーカーの技術資料をエビデンスとして添付する必要がありました。しかし、提出期限は1カ月半。圧倒的に時間が足りません・・・」
兼松のパートナーは、これまでも飛行検査機プロジェクトで協業してきたアメリカの飛行機メーカーと、ノルウェーの飛行検査システムメーカー。どちらも世界で名だたる一流メーカーであり、彼らとの交渉には妹尾の力が試される。妹尾はそのメーカーに資料を展開して回答をもらい、それに対してフィードバックを行い、JCABが求めるものに合致する技術提案書へとつくりあげていく。しかし、メールと電話でのやりとりだけでは、お客様ニーズに対する認識のズレが埋まらずどうにもスピードが上がらない。そこで妹尾はアメリカに飛び、飛行機メーカーと飛行検査メーカーを招集して、フェイス・トゥ・フェイスでミーティングを行なった。これでお互いの認識の共有が飛躍的に進んだ。しかし、それでも時間は足りなくなる。妹尾は自ら作業を願い出た。「メーカーに任せるだけでなく、メーカーが提供する膨大なカタログやマニュアルの中から、エビデンスとなる技術資料に該当する内容を探し出す作業を行いました。技術的な素地と地道さが求められるタフな作業でしたね」
(Norwegian Special Mission社製)
勝つか、負けるか。
究極の選択を迫られるプレッシャーを超えて。
妹尾が限られた時間の中で死力を尽くし、つくりあげた技術提案書は無事、JCABに認められ、いよいよ入札へのステージへと歩を進めた。「最終的に勝負どころとなるのはやはり金額です。しかし、確実に勝てる金額というものは誰にもわかりません・・・」妹尾は、チームメンバーと共に競合各社の協業メーカーのカタログの価格をにらみつつ勝てる“金額”を見極めていった。「入札には技術提案書の評価も反映されます。他社の技術提案の評価を予想しつつ、自社が受けた技術提案の評価と提示できる金額のバランスを検討していきました」
その後、妹尾はメーカーとの価格交渉に入る。「なぜ、この金額でなければ勝てないのか、ロジカルな説明を行った上で、いくらで金額を提示できますかと。何度も調整を重ね、最後は、我々がほぼ100%シェアを占めるマーケットに競合メーカーが入り込む余地を与えてもいいのかと情に訴えました(苦笑)」
そして、いよいよ迎えた入札会の日。蓋を開けてみると、入札に参加したのは兼松を含めた3社。かかるプレッシャーは最高潮に達していた。「本当にこの内容で勝てるのか。もし負けたら、メーカーに申し訳が立たない。また、受注額50億を超える本プロジェクトは兼松にとっても失うものが大きい。胃が痛かったですね」妹尾が固唾を飲んで結果を待つ中、兼松の名が呼ばれ、無事、落札。妹尾は冷静を装いながら、心の中でガッツポーズした。
日本の上空を飛行するまで、
困難に立ち向かう日々は続く。
落札後の2018年度末、アメリカ及びノルウェーにてJCAB、兼松と飛行機メーカー、飛行検査システムメーカーの担当者が一堂に会し、最初のプロジェクトキックオフミーティングが開かれた。納入予定は、2021年12月末。ここから設計、製造開発、納入に向けて、本格的にプロジェクトがスタートした。
そしてその後、設計審査を終え、2020年現在、飛行機、飛行検査システムの製造が始まっている。「この後、まだまだ私にとってタフなプロセスが山ほど待ち受けています。今年の夏には飛行機とシステムを組み合わせる改造フェーズに入りますが、その間にも数多くの調整事項が発生します。しかし、そうした大事な局面において、私たちが、お客様とメーカー、双方を熟知しているからこそ見えるものがある。そこでお客様とメーカーの間に立って調整し、両者が納得できるような結論に導く役割を果たしていくのが、私たちの存在価値なのです」
担当者として本プロジェクトを推進してきた妹尾は今、自身の成長を実感している。「技術的知見を深められたのはもちろん、メーカーとのタフな交渉を通じて、レベルの高い交渉術を身につけることができました」
自らが入札から製造、納入まで一貫して携わった飛行検査機が、日本の上空を飛行する日は確実にやってくる。その想いが妹尾に励みを与えている。「日本の空の安全に貢献できる。自分が日々取り組んでいること一つ一つがそこにつながることが大きなやりがいです」