ENVIRONMENT & MATERIALS 環境・素材部門

それは、ひとことの顧客要望から始まった――。 化石由来から生物由来へと代替させる素材探し

それは顧客からのリクエストがきっかけだった

「商社の営業職には、事業そのものを企画提案するビジネスプランの策定スキルが求められます。兼松には、そうしたスキルをより深めたい社員に向けて研修があり、私はそれを受講していました」。
平田がいうのは、兼松社内で実施されるビジネスプラン策定研修(以下、BP研修)を指している。新規ビジネス立ち上げに必要な基礎知識を学んだ上で、6名1チームの単位で、ビジネスのシーズとなり得るプランを役員にプレゼン。収益が期待出来るプランと認められれば、即、社の新規事業として実現化へ移行する。実にダイナミズムに満ちた、社員育成プログラムだ。

「その研修に参加していた当時(2009年)、あるお客さまから『黒色顔料で、天然由来の素材はないか?』という問い合わせがありました。代表的な黒色顔料といえばカーボンブラック。カーボンブラックは、ゴム製品の補強材、あるいはコピー機トナー、印刷用インクや顔料に使用される化石燃料由来の化学品。歴史が古く、代替となり得るものが過去に登場してこなかった不動の素材です。代替素材をいろいろ探したのですが、簡単に見つかるはずもありません」。
今から百年ほど昔の1900年初頭、ゴムにカーボンブラックを混ぜると耐久性が飛躍的に向上することが発見された。軍需物資として、またモータリゼーションの急速な発展にともなって、カーボンブラックは大量供給され、市場が成長してきた経緯がある。顧客からのリクエストはかなり難度の高いハードルであった。

生物素材、リグニンとの出会い

しかし、人脈を総動員し、ついに平田はリグニンなる素材にたどりつく。リグニンは、木材中の20~30%を占める植物由来成分。植物の細胞壁を強固にする化合物である。製紙原料のパルプやバイオエタノールを生産する際の副産物に大量に含まれるこのリグニンを、カーボンブラックの代替用途を模索する研究・開発が行われているといった情報をキャッチした。

平田が探り当てたのは、リグニンブラックと呼ばれる中空炭素微粒子。まだ量産化されていないため、その認知度は低い。しかし、可能性を秘めた期待の素材だ。
「リグニンブラックを発明したのは、産業技術総合研究所(以下、産総研)という独立行政法人。彼らは、量産化までの開発を共同で進めてくれるパートナーを探していました」。
平田が所属する部門の顧客に大手製紙メーカーがある。産総研のパートナーとしてはうってつけの存在だった。しかも量産化が成功すれば、マーケットの物流に乗せるプロとして兼松が介入できる。プランがまとまるまでに時間はかからなかった。研修のチームで主体的に動けば、代替素材としてのビジネスモデルが描けるかもしれない。直感が働いた平田は、BP研修にこのプランを持ち込んだ。

その結果、プランは社の新規事業として実現化へ移行する案件に決定。そして2010年春、産総研/製紙メーカー/兼松の三社連合のプロジェクトとして動き出した。だが、リグニンブラックの量産化に向けて、この先さまざまな課題に直面する。

開発のターニングポイントに立ち会う

「リグニンに関する開発は、昔から様々な研究が行われていました。ただ、炭化することでカーボンブラックのような粒子を作り出したのは産総研の発明でした。ラボでの処方はほぼ完成していましたが、小型量産機での試作では、加熱が過ぎれば粒子がブロック状に固まってしまったり、逆に、乾燥が足りなければベタベタになってしまう。新素材の量産化という挑戦ゆえ、解決策について誰もわからない。まさに手探り状態が続いたのです」。

ようやく、研究は“このような設備でこのような条件下で進めれば製造できる”という着地点に到達。設備メーカー協力の下、量産化へ向けたテストプラントが設計された。兼松と製紙メーカーが、産総研と共に行ってきたリグニンブラックの共同研究。そこで蓄積されたノウハウは門外不出であり、このノウハウを元にして製作されるのが、世界初の“リグニンブラック量産化”テストプラントなのである。リグニンブラックの開発において大きなターニングポイントとなることは間違いない。時代が動く舞台に立っている喜びを、平田は語る。

「2011年度、本プロジェクトは環境省の補助金が得られることになりました。化石由来原料から生物由来原料への転換が図れること、タイヤ製造等に関るCO2排出量削減の可能性があり、また循環型社会形成に寄与することが見込まれるためです。リグニンブラックの開発は、地球温暖化対策の一助となるプロジェクトとして社内外から期待の声が高く、『夢のあるプロジェクトだね』と評価をいただけるのがうれしいですね」。

兼松は、この企業秘密が集約されたテストプラントが完成次第、リグニンブラックの製造条件を確立、商材の品質を整えていく構えだ。

「国内市場約1,600 億円(世界市場約1.6 兆円)と推定されるカーボンブラックの代替品として、品質の最適化を追求していきます。ただし、製造コストはまだまだ未知数であり、フィージビリティスタディに余念がない日々が続くでしょうね」。
商圏のボリュームを見越した自信が、その瞳の奥にうかがえた。

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